電気自動車だけじゃない!内燃エンジンが支える自動運転の未来図内燃エンジン自動運転車の開発レポート

内燃エンジン車における自動運転技術の現状と将来展望について、最新の研究結果と業界動向を踏まえた包括的な分析を行います。本レポートでは、環境問題や電動化が進む中でも依然として重要な役割を担う内燃エンジン車の自動運転技術開発について、技術的課題から社会実装までの広範な視点で解説します。

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1. はじめに

1.1 内燃エンジン車の自動運転開発の意義

現在、自動車産業は「CASE」と呼ばれるコネクテッド(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェアリング(Shared)、電動化(Electric)という大きな変革の波にさらされています。特に電動化と自動運転は、未来の自動車の姿を根本から変える技術として注目されています。多くの国がEV(電気自動車)へのシフトを政策的に推進する中、内燃エンジン車(ICE車:Internal Combustion Engine車)の自動運転技術開発に取り組む意義は何でしょうか。

アーサー・ディ・リトルの調査によれば、現在ICE車両を使用しているドライバーの44%は、世界的に見ても次の車もICEエンジンにする予定という結果が出ています2。「思ったより消えない」ICE車の存在感は、電動化への移行が段階的に進む中で、今後も相当数の内燃エンジン車が道路を走り続けることを示唆しています3

内燃エンジン車は特に新興国や郊外・地方部において、インフラ制約や経済的理由から当面主流であり続けることが予想されます。そのため、ICE車への自動運転技術の実装は、自動運転技術の社会的便益を広く普及させるために不可欠と言えるでしょう。

1.2 自動運転技術の発展段階とICE車の位置づけ

自動運転技術は一般的に「レベル0」から「レベル5」までの6段階で定義されています。レベル0は自動運転機能がない状態、レベル1は単一の運転操作の自動化(アダプティブクルーズコントロールなど)、レベル2は複数の運転操作の自動化(車線維持支援と速度調整の組み合わせなど)、レベル3は特定条件下での自動運転(ドライバーは緊急時に備える必要あり)、レベル4は特定条件下での完全自動運転、レベル5はあらゆる状況での完全自動運転を指します。

現在、市場に投入されている自動車の多くはレベル1またはレベル2の機能を搭載しており、一部の高級車種ではレベル3機能が実用化されています。2021年3月には本田技研工業によって世界で初めてレベル3の自動運転車の販売が開始されました17。これはICE車でもEVでも自動運転技術そのものは同等に実装可能であることを示しています。

内燃エンジン車における自動運転技術の開発は、特にレベル2からレベル3への移行期において重要な役割を果たしています。現在新車として販売されている内燃エンジン車の多くは今後10-15年間は道路を走り続けることになるため、これらの車両に後付けや段階的に自動運転技術を実装していくことは、社会全体の交通安全性向上と渋滞緩和に大きく貢献すると考えられます。

2. 内燃エンジン車の自動運転開発の現状

2.1 世界および日本の開発動向

2.1.1 日本のメーカーの取り組み

トヨタ自動車は「ウーブン・シティ」と呼ばれる実験都市を構築し、その地下に巨大な実験場を設けて自動運転技術の実証を進めています。この施設は直射日光やちりなどの環境要因に左右されず自動運転技術を試すことができるため、技術者にとって「夢の場所」と表現されています4。また、2024年7月には東京・お台場の公道で、状況に応じて車内のオペレーターが操作する「レベル2」での実証実験を開始する予定で、将来的には一定の条件下で無人運転が可能な「レベル4」の実現を目指しています11

ホンダも独自開発のAIを活用した小型自動運転車「CiKoMa」の実証実験を行っています。この車両は7つのカメラの情報をAIが分析することで人を避けることができます。また、端末を装着すれば音声での車の呼び出しなどのコミュニケーションも可能です。歩行者の先導ができるロボット「WaPOCHI」も開発されており、荷物が置けるという特徴を持ち、高齢者などの活用を見込んでいます5。ホンダは2026年初めに自動運転タクシーサービスを開始する計画も進めています11

2.1.2 国際的な動向

国際的には、電気自動車メーカーのテスラが自社のオートパイロット技術を活用した先進運転支援システム(ADAS)の開発に取り組んでおり、現時点で自動運転レベル2に達しています。このシステムには、渋滞時のクルーズコントロール、自動車線中央維持、自動車線変更、セルフパーキング、一部の高速道路における半自動ナビゲーション制御などの機能が搭載されており、最終的にはレベル4や5の到達を目指しています18

また、高級車ブランドのキャデラックも「スーパークルーズ」と呼ばれるハンズフリー運転支援システムを複数のモデルに搭載しています18

2.2 技術的な進展状況

2.2.1 現在の実用化レベル

現在、内燃エンジン車における自動運転技術はレベル1(運転支援)からレベル2(部分自動化)が主流であり、一部の高級車種ではレベル3(条件付き自動運転)の機能も実用化されています。日本では2021年3月に世界で初めてレベル3の自動運転車(本田技研工業による)が販売開始されました17

レベル1の例としては、アダプティブクルーズコントロール(前方車両との車間距離を自動で維持する機能)や車線逸脱警報システムなどが挙げられます。レベル2では、車線維持支援と速度調整を組み合わせた機能などが実装されています。レベル3では、高速道路などの限定された条件下で、システムが運転操作を行い、緊急時にはドライバーに運転を引き継ぐよう要請するシステムが実用化されています。

2.2.2 通信技術との連携

自動運転技術の発展には高速・低遅延の通信技術が不可欠です。現在実用化されている5G(第5世代移動通信システム)は、超高速、超低遅延、多数同時接続を実現する次世代通信システムであり、自動運転や遠隔操作など精度が高く安全性が必要な技術を確実に実施するために重要な役割を果たしています12。さらに2030年頃の商用化に向けた「Beyond 5G」では、よりミリ波側の高周波数帯(300GHz帯)の利用が想定されており、自動運転技術のさらなる発展を支える通信インフラとなる見込みです12

2.3 ICE車での自動運転開発の特徴と課題

2.3.1 制御の複雑さと対応

内燃エンジン車における自動運転技術の開発では、エンジンやトランスミッションといった機械的な構成要素の制御が大きな課題となります。特に非線形性を持つエンジン特性を正確に制御するためには、高度な制御アルゴリズムが必要です。

この課題に対応するため、「非線形モデル予測制御(Non-linear Model Predictive Control: NLMPC)」などの高度な制御技術が研究されています。NLMPCを用いることにより、複数の動的障害物に囲まれた複雑な環境下において、衝突を回避し、かつ乗り心地のよい車両運動制御を安定して実行することが可能となります13

2.3.2 パラメータ変動への対応

自動運転車の開発においては、車両の物理的特性の変動に対するロバスト性(安定性)が重要な課題です。例えば、コーナリングパワー(タイヤが横方向に発生させることができる力)は雨天時や路面状態、タイヤ空気圧などにより大きく変化するパラメータです。また、車体の質量は搭乗者数や積荷により変化し、それに伴って慣性モーメント(回転のしにくさ)も変化します。さらに、坂道走行時には平面モデル化時における重心位置が変化するなど、これらのパラメータを精度よく把握することは難しいという課題があります14

この課題に対応するため、「モデル誤差抑制補償器に基づくロバスト経路追従制御」などの技術が研究されています。これにより、パラメータの変動に対しても安定した自動運転制御が可能となります14

3. 技術的構成要素と課題

3.1 自動運転システムの構成

3.1.1 センサー技術

自動運転システムの基本構成要素として、周囲の環境を認識するためのセンサー技術が挙げられます。主なセンサーとして、カメラ、レーダー、LiDAR(Light Detection and Ranging)があります。

カメラは比較的低コストで色や形状の識別に優れており、交通標識や信号、車線などの視覚的情報の認識に適しています。例えばホンダの小型自動運転車「CiKoMa」は、7つのカメラの情報をAIが分析することで人を避けるなどの操作を行っています5

レーダーは電波を発射して反射波を捉えることで、前方車両との距離や相対速度を正確に計測でき、悪天候下でも安定して機能します。これはアダプティブクルーズコントロールなどで広く利用されています。

LiDARはレーザー光を照射して反射光を計測することで、高精度な3D空間マッピングを可能にします。障害物の形状や位置を正確に把握できるため、高度な自動運転には不可欠とされていますが、コスト面での課題もあります。

3.1.2 AI・機械学習技術

センサーからの情報を処理し、運転判断を行うためのAI(人工知能)・機械学習技術も自動運転システムの重要な構成要素です。特にディープラーニング(深層学習)と呼ばれる手法により、画像認識性能が飛躍的に向上し、カメラ映像からの物体検出や分類が高精度で可能になっています。

例えばホンダの「CiKoMa」では、AIがカメラ映像を分析し、歩行者や障害物を認識して適切な運転判断を行います。また、音声でのやり取りなど、人と協調する独自のAIを搭載することで、より自然な形での自動運転車の利用が可能になっています5

3.1.3 インフラ連携技術

自動運転技術の発展には、車両単体の技術だけでなく、道路インフラとの連携も重要です。国土交通省の取り組みでは、「自動運転に必要なセンサやAI学習、安全な走行環境の整備について、車両とインフラの双方から支援」することが示されており、収集データは自動運転車開発と道路管理の双方で活用されることが想定されています6

具体的なインフラ連携の例としては、磁気マーカを埋め込んだ道路上を自動運転車が走行する実証実験(滋賀県大津市)や、信号機等との連携を図る実証実験(長野県塩尻市)などが行われています17

3.2 ICE車特有の技術的課題

3.2.1 電源供給の課題

内燃エンジン車における自動運転システムの大きな課題の一つが電源供給です。自動運転に必要なセンサーやコンピューティングシステムは多くの電力を消費しますが、従来の内燃エンジン車の電気系統はそれほど大きな電力を供給する設計になっていません。

例えば、複数のカメラ、レーダー、LiDARといったセンサー類、それらのデータを処理する高性能コンピュータ、さらには緊急時のバックアップシステムなどを動かすためには、十分な電力供給が必要です。電気自動車(EV)では大容量バッテリーからの電力供給が容易ですが、内燃エンジン車では発電機(オルタネーター)の容量や補助バッテリーの追加などの対応が必要となります。

3.2.2 アナログ的なパワートレイン制御と電子制御の親和性

内燃エンジンは機械的な構成要素が多く、電子制御システムとの統合においては独自の課題があります。特にエンジンの制御はスロットル開度やギア比、燃料噴射量など複数のパラメータの調整が必要で、これらと自動運転システムの指令を滑らかに連携させることが重要です。

例えば、緊急時のブレーキング操作では、エンジンブレーキとフットブレーキの協調制御や、急な加速要求に対するエンジン応答性の確保などが課題となります。これらは「非線形モデル予測制御」などの高度な制御技術によって対応が図られています13

3.2.3 構造の複雑さとセンサー・ECU追加の難しさ

内燃エンジン車は複雑な機械構造を持つため、自動運転用のセンサーや電子制御ユニット(ECU)の追加設置が難しい場合があります。特にエンジンルームは既に多くの部品で占められており、追加のハードウェアを設置するスペースが限られています。

また、後付けの自動運転システムを実装する場合、既存の車両システムとの干渉を避けつつ、安全性を確保するための冗長設計(バックアップシステム)を導入する必要があり、これが設計上の大きな課題となっています。

3.3 ICE車での自動運転のメリット・デメリット

3.3.1 メリット

内燃エンジン車への自動運転技術の実装には、以下のようなメリットがあります:

  1. 普及台数の多さを活かした社会的便益の早期実現:内燃エンジン車は世界中で圧倒的な普及台数を誇るため、これらの車両に自動運転技術を実装することで、交通安全性の向上や渋滞緩和といった社会的便益を広範囲に早期実現できる可能性があります。
  2. 既存インフラとの親和性:ガソリンスタンドなどの既存インフラをそのまま活用できるため、特に電気自動車向けの充電インフラが整っていない地域での自動運転サービスの展開が容易です。
  3. 長距離走行での利便性:内燃エンジン車は給油が短時間で済み、航続距離も長いため、長距離走行が必要な自動運転サービス(例:都市間タクシーや物流)において有利です。

3.3.2 デメリット

一方で、以下のようなデメリットも存在します:

  1. 電子制御系との親和性の低さ:内燃エンジン車は機械的な構成要素が多く、全電子制御が前提の自動運転システムとの親和性が電気自動車と比較して低い傾向があります16
  2. 電力供給の制約:前述のように、自動運転システムの稼働に必要な電力を安定して供給するための追加設計や改造が必要になる場合があります。
  3. 環境面での課題:カーボンニュートラル政策が世界的に進む中、内燃エンジン車の長期的な利用には環境面での課題が残ります。ただし、合成燃料やバイオ燃料などのカーボンニュートラル燃料の開発が進めば、この課題は軽減される可能性があります8

4. 法規制・社会実装の動向

4.1 日本および世界の法規制、社会実装の現状

4.1.1 日本の法規制と実装状況

日本では2020年3月に世界に先駆けて自動運転車の技術基準を策定し、2020年6月には日本の基準と同等の国際基準が成立しました。これにより、2021年3月には本田技研工業によって世界で初めてレベル3の自動運転車が販売開始されるという成果につながりました17

道路交通法や道路運送車両法の改正により、特定条件下での自動運転システムの使用が法的に認められるようになりました。例えば、高速道路等の自動車専用道路における渋滞時などの限定された条件下では、レベル3の自動運転(条件付き自動運転)が認可されています。

4.1.2 世界の法規制動向

欧州連合(EU)では、欧州委員会が自動運転技術の導入促進のための法的枠組みを整備しています。特に注目すべきは、2035年以降のエンジン車の新車販売禁止という当初の方針に対して、例外として合成燃料や水素を利用する専用内燃機関搭載車については新車販売を2035年以降も容認することになった点です8。これは環境面での課題に対応しつつ、内燃エンジン車の技術発展を継続させる重要な政策転換と言えます。

米国では各州が独自の自動運転車両に関する規制を設けており、カリフォルニア州やアリゾナ州などでは積極的に公道試験を認める法整備が進んでいます。連邦レベルでは国家道路交通安全局(NHTSA)が安全基準の策定を行っていますが、州ごとの規制の違いが自動運転技術の展開における課題となっています。

4.2 インフラ整備や安全基準、社会受容性

4.2.1 インフラ整備の取り組み

自動運転技術の社会実装には、車両技術だけでなく、それを支えるインフラ整備も重要です。国土交通省の「自動運転の実現に向けたインフラ支援」の取り組みでは、「一般道での自動運転移動サービスを加速するため、自動走行時のリスク回避を道路側から支援」することが計画されています6

具体的には、まず多様な交通環境下の特定経路から実証を開始し、成果を踏まえて一定規模のモデル地区へ拡大していく段階的なアプローチが採用されています。すでに北海道上士幌町(雪の中での実証)、長野県塩尻市(信号機等との連携)、滋賀県大津市(磁気マーカ上を走行)、愛知県日進市(市中心部での実証)などで実証実験が行われています17

4.2.2 安全基準の確立

自動運転技術の安全性確保のためには、厳格な安全基準の確立が不可欠です。日本では国土交通省が中心となって安全基準の策定を進めており、2020年3月に世界に先駆けて自動運転車の技術基準を策定しました17

この技術基準では、自動運転システムの機能要件(認知・判断・操作の各機能の性能要件)や安全設計(フェールセーフ機能)、サイバーセキュリティ対策、ソフトウェアアップデートなどに関する要件が詳細に定められています。

4.2.3 社会受容性の向上

自動運転技術の普及には技術的・法的課題だけでなく、社会受容性の向上も重要な課題です。自動運転技術が注目される主な理由の一つは、交通事故を大幅に減らせる点にあります10。人為的ミスによる交通事故の削減という社会的便益を分かりやすく伝えることで、自動運転技術への理解と受容を促進することが重要です。

一方で、消費者調査によれば、消費者の3分の2近く(65%)が自動運転に関する最大の懸念事項として、マシンエラーによる安全リスクを挙げており、過去5年間で信頼レベルは大きく上昇していないという現実もあります2。このような懸念に対応するためには、技術の透明性確保と信頼性の実証が不可欠です。

5. 環境・市場動向と今後の展望

5.1 カーボンニュートラル政策やEVシフトの影響

5.1.1 各国のカーボンニュートラル政策

世界各国はカーボンニュートラル(炭素中立)の実現に向けた政策を打ち出しています。日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言し、その取り組みの一つとして2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じるとしています7。ここでいう電動車には、電気自動車(EV)だけでなく、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)も含まれています。

欧州連合(EU)も2050年のカーボンニュートラル実現を目指しており、その過程として2035年以降のエンジン車新車販売禁止を計画していました。しかし、技術的・経済的な現実を踏まえて、例外として合成燃料や水素を利用する専用内燃機関搭載車については新車販売を2035年以降も容認するという方針転換が行われています8

5.1.2 EVシフトによる産業構造の変化

自動車産業はEVシフトによって大きな産業構造の変化に直面しています。内燃エンジン関連部品は電気自動車では不要となるため、これまでエンジン関連部品を生産してきた部品メーカーは事業転換を迫られています19

一方で、電動化と自動運転は技術的に親和性が高く、電気自動車は自動運転技術の実装においてエンジン車よりも有利なアーキテクチャーを持つとされています16。これは、電気自動車が完全電子制御を前提とした設計になっており、自動運転システムとの統合が容易であることが理由です。

しかし、実際の市場では、消費者はピュアな電気自動車(BEV)への切り替えよりも、ハイブリッド車の選択肢に重点を置く傾向があります。世界の消費者の34%が次の車はハイブリッドになると予想しており、これはICEと同数で、純粋なBEV(26%)を上回っています2

5.2 新興国市場でのICE車自動運転の可能性と今後の需要

5.2.1 成熟市場と成長市場の二極化

自動車市場は「成熟した自動車市場(北東アジア、北米、欧州)」と「成長市場(中国、インド、東南アジア、中東)」に二分されつつあります2。成熟市場ではデジタル化や自動化といった新たなイノベーションにあまりオープンでない消費者が多い一方、成長市場では製品やチャネルの革新に対して非常にオープンな傾向があるとされています。

特に中東の消費者は自動車購入プロセスのデジタル化に積極的で、53%がオンラインでの契約締結に前向きな姿勢を示しています2。このような地域差は、自動運転技術の普及にも影響を与えると考えられます。

5.2.2 新興国市場での内燃エンジン車の継続的需要

新興国市場では、電気自動車のインフラ整備(充電設備など)が不十分である一方、ガソリンスタンドなどの内燃エンジン車向けインフラは整備されています。また、購入価格や維持費の面でも、現時点では内燃エンジン車が優位性を持つ場合が多いです。

これらの要因から、新興国市場では今後も内燃エンジン車への需要が継続すると予想され、これらの車両に自動運転技術を実装することで、交通安全性の向上や渋滞緩和といった社会的便益を広く普及させることができる可能性があります。

5.3 エンジン技術者不足やICE技術継承の課題

5.3.1 技術者育成の課題

電動化シフトが進む中、内燃エンジン関連の技術者育成が縮小傾向にあることが業界の課題となっています。大学や専門学校でのカリキュラムも電動化・情報化技術にシフトしており、内燃機関に関する専門知識を持つ新たな技術者の輩出が減少しています。

しかし、前述のように内燃エンジン車は特に新興国市場などで今後も一定の需要が継続すると予想されるため、内燃機関に関する技術継承と技術者育成は依然として重要な課題です。

5.3.2 産学連携による技術継承

内燃機関技術の継承と発展のためには、産学連携による取り組みが重要です。日本では、国内の自動車メーカー9社と2団体で構成される自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)が設立されており、「日本発の優れた技術で内燃機関の環境性能を高め、世界に貢献していく」という産業界の決意が学術界の共感を呼び、技術開発の取り組みが行われています20

このような産学連携の枠組みは、内燃機関技術の継承・発展だけでなく、自動運転技術との統合においても重要な役割を果たすと考えられます。

5.4 今後の技術開発の方向性

5.4.1 カーボンニュートラル燃料との組み合わせ

内燃エンジン車の環境性能を高めるアプローチとして、カーボンニュートラル燃料(合成燃料、バイオ燃料など)の開発が進められています8。これらの燃料は、従来の内燃エンジンをそのまま、あるいは小改造で使用できるという利点があります。

特に合成燃料(e-fuel)は、再生可能エネルギーを使って大気中のCO2と水から合成される燃料で、燃焼時に排出されるCO2は合成時に大気から取り込んだ量と同等となるため、ライフサイクル全体でのCO2排出を実質的にゼロにすることができます。この技術と自動運転技術を組み合わせることで、環境性能と安全性を両立した次世代の内燃エンジン自動運転車が実現する可能性があります。

5.4.2 内燃機関の効率向上

内燃機関自体の効率向上も重要な研究テーマです。日本では「革新的燃焼技術の開発計画」が進められており、自動車用内燃機関の飛躍的な効率向上を目指しています20

効率向上のアプローチとしては、燃焼方式の改良(例:HCCI(予混合圧縮着火)方式)、摩擦損失の低減、熱効率の向上などが研究されています。これらの技術によって内燃機関の環境性能が向上すれば、自動運転技術との組み合わせによる社会的便益(安全性向上、渋滞緩和など)を環境負荷の増大なしに実現できる可能性があります。

5.4.3 ハイブリッドシステムとの統合

内燃エンジンと電動技術を組み合わせたハイブリッドシステムは、環境性能と実用性をバランスよく両立する技術として世界的に注目されています。世界の消費者の34%が次の車はハイブリッドになると予想しており、これは純粋なBEV(26%)を上回っています2

ハイブリッドシステムは、電動パワートレインの制御性の高さと内燃エンジンの航続距離の長さを組み合わせたものであり、自動運転技術との親和性も高いと考えられます。特に、プラグインハイブリッド車(PHV)は「通常のEVと同じだけの走行距離を走ったのちに、さらに内燃エンジンの航続距離を走ることが可能で、併用すれば高い性能が得られる」という特徴を持ちます19

6. まとめ・考察

6.1 ICE自動運転車の意義と今後の課題

6.1.1 社会的意義

内燃エンジン車における自動運転技術の開発は、以下のような社会的意義を持ちます:

  1. 普及台数の多さを活かした社会的便益の早期実現:世界中に広く普及している内燃エンジン車に自動運転技術を実装することで、交通安全性の向上や渋滞緩和といった社会的便益を広範囲に早期実現できる可能性があります。特に交通事故の削減は自動運転技術の大きな意義であり10、この便益を広く普及させるためには既存の内燃エンジン車への技術実装も重要です。
  2. 地域格差の軽減:電気自動車のインフラ整備が遅れている地域においても、内燃エンジン車への自動運転技術の実装により、先進的なモビリティサービスの恩恵を受けることができます。これは特に新興国や地方部において重要な意義を持ちます。
  3. 移行期における橋渡し:完全な電動化・自動運転化への移行期において、内燃エンジン自動運転車は重要な橋渡しの役割を果たします。特に既存の車両への後付けシステムや、新車での部分的な自動運転機能の実装は、社会全体の自動運転技術への順応と理解を促進する効果があります。

6.1.2 今後の課題

一方で、内燃エンジン自動運転車の開発と普及には以下のような課題が存在します:

  1. 技術的課題:前述のように、電源供給の制約、アナログ的なパワートレイン制御と電子制御の親和性、構造の複雑さによるセンサー・ECU追加の難しさなどの技術的課題があります。これらを解決するための研究開発が継続的に必要です。
  2. 環境性能の向上:カーボンニュートラル政策が世界的に進む中、内燃エンジン車の環境性能向上は不可欠です。合成燃料やバイオ燃料などのカーボンニュートラル燃料の開発・普及、内燃機関自体の効率向上が重要な課題となります。
  3. 社会受容性の向上:消費者の3分の2近く(65%)が自動運転に関する最大の懸念事項として、マシンエラーによる安全リスクを挙げており2、この懸念を払拭するための安全性実証と透明な情報提供が重要です。
  4. 法規制の整備:自動運転技術の普及には、それを支える法規制の整備が不可欠です。特に事故時の責任の所在や保険制度、プライバシー保護などの面で、さらなる法整備が必要とされています。

6.2 EV・FCVとの比較や将来の役割

6.2.1 技術的特性の比較

内燃エンジン車(ICE車)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)は、それぞれ異なる技術的特性を持ち、自動運転技術との親和性も異なります:

  1. ICE車:機械的な構成要素が多く、制御系の複雑さや電源供給の制約があるものの、既存の車両への後付けや段階的な機能実装が可能です。燃料補給が短時間で済み、長距離走行にも適しています。
  2. EV:完全電子制御を前提とした設計で自動運転との親和性が高く16、大容量バッテリーからの安定した電力供給が可能です。一方で、充電時間の長さや航続距離の制約、充電インフラの整備状況などの課題があります。
  3. FCV:EVと同様に電子制御との親和性が高く、水素燃料の補給は短時間で済みます。しかし、水素インフラの整備が十分でなく、コスト面での課題も大きいです。

ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点から見ると、日本のようにエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合が低い国では、現時点ではハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)のCO2排出量はほぼ同等とされています7。したがって、環境面から見ても内燃エンジン車(特にハイブリッド車)の役割は依然として重要です。

6.2.2 将来における役割分担

将来的には、各車両タイプがそれぞれの特性を活かした役割分担が予想されます:

  1. 都市内短距離移動:充電インフラが整備された都市部では、EVベースの自動運転車が主流となる可能性が高いです。特に小型モビリティやシェアリングサービスなどの用途において、EVの静粛性や環境性能、電子制御との親和性が活かされると考えられます。
  2. 都市間長距離移動:長距離移動や高速道路での走行においては、ハイブリッド車や合成燃料を使用したICE車、あるいはFCVベースの自動運転車が活躍する可能性があります。特に燃料補給の速さと航続距離の長さが重要な物流やタクシーなどの分野では、これらの車両が優位性を持つでしょう。
  3. 地方・新興国での利用:充電インフラの整備が不十分な地方部や新興国では、ICE車ベースの自動運転車が引き続き重要な役割を果たすと考えられます。特に既存のガソリンスタンドなどのインフラを活用できる点は大きな利点です。

このように、単一の技術への一方的な移行ではなく、多様な技術が共存しながら、それぞれの特性を活かした役割分担が行われることが、持続可能で包括的なモビリティ社会の実現には重要と考えられます。日本自動車工業会も「カーボンニュートラル実現のためには、多様な電動車を最適なバランスで普及させていくことが重要」と述べており7、この考え方は自動運転技術の普及においても同様に適用できるでしょう。

6.3 総括

内燃エンジン自動運転車の開発は、電動化と自動運転という二つの大きな技術トレンドの交差点に位置する重要な研究分野です。電動化への完全移行には時間がかかり、その間も内燃エンジン車は引き続き道路を走り続けることから、これらの車両に自動運転技術を実装することは、交通安全性の向上や渋滞緩和といった社会的便益を広く普及させるために不可欠です。

特に、合成燃料やバイオ燃料などのカーボンニュートラル燃料の開発・普及が進めば、環境面での課題も克服できる可能性があります。また、ハイブリッドシステムとの組み合わせによって、環境性能と実用性をバランスよく両立することも可能です。

内燃エンジン自動運転車の開発と普及には、技術的課題(電源供給、制御系の複雑さなど)の解決や、法規制の整備、社会受容性の向上など多くの課題が残されていますが、これらの課題に取り組むことで、より安全で効率的、環境に優しいモビリティ社会の実現に貢献することができるでしょう。

最終的には、ICE車、EV、FCVそれぞれが自動運転技術と統合されながら、それぞれの特性を活かした役割分担が行われることで、多様なニーズに対応した包括的なモビリティエコシステムが構築されることが理想的な将来像と言えます。

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